ティム・ロビンスの愛国者法演劇2006/06/22 00:55

原題は、Tim Robbins's Patriot Act

Jordan Elgrably, AlterNet. 2006年3月2日掲載

ロビンス最新の芝居、オーウェルの「1984年」の翻案はブッシュ政権による「テロに対して永遠に続く戦争」について直接語っている。

死刑に関する「ときはなたれて」や、イラクにおけるマスコミに関する「Embedded」など見事な芝居を作った俳優で作家で監督であるティム・ロビンスが、政治色の濃い芝居を勇敢に作り続けるのは必然的なことかも知れない。

ロサンゼルスのアクターズ・ギャング・アンサンブルによる彼の最新作は、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」に基づいて、サンフランシスコ・ マイム・トループの監督マイケル・ジーン・サリバンが脚本を書いた痛烈な芝居で、ビッグ・ブラザーが現れ、我々が苦しめられる。

アクターズ・ギャングの舞台は、サリバンとロビンスが、資本主義は、経済的搾取と、支配の為の手段として、とどまるところのない戦争を利用するのだ、と主張するビッグ・ブラザー最大の敵ゴールドシュタインが書いたという設定で出てくる本に焦点を当てているところが、これまでのオーウェル作品の翻案と大きく異なっている。

「今回の上演では、ここがかなめです」芝居を演出しているロビンスは語っている。「私にとってそれが主題です。今こそ、とても真実に聞こえるのですから。」1948年に書かれた作品で、オーウェルは未来を見ていたわけではなく、「彼を取り巻く社会を反映していました … 実際、彼が論じていたのは、戦争が少数派エリートが権力を持ち続け、脱工業化時代に経済資源を消耗するための手段になっていることでした。」とロビンズは指摘する。

実際アクターズ・ギャングの演出では、ビッグ・ブラザーが、永遠に続く戦争によって大衆を支配し、搾取する、エリートの少数派であることを暴露している。(ラムズフェルド国防長官がテロに対する戦争を「長い戦争」と呼び、ブッシュ政権が議会に対し来年の国防費予算として4390億ドルの支出を承認するよう要求したのはつい先日のことではなかったろうか?)

政府の支配について言えば、作家オーウェルが、ビッグ・ブラザーの絶大な権力に、圧政に虐げられた大多数に対して全く関心を持たせなかった事に、ロビンスは驚愕している。「彼の先見の明は驚くばかりです。あの本を読むと、プロールである85パーセントの人々、つまり貧困と過労の為にすっかり正気を無くしてしまって、娯楽と宝くじで骨抜きにされて、決して問題を起こさない連中のことなどは、気にかけていないというくだりがあります。… ビッグ・ブラザーが監視して、気にかけなければならないのは、残りの15パーセントの人々だ、と。」

2月11日に始まり4月8日まで続いた上演期間中、観客は、現在の出来事との類似を、面白がりながらも、不安を感じているように見えた。アメリカ国民を盗聴する国家安全用装置。軍隊によるアフガニスタン、イラクやグアンタナモの刑務所における拷問の利用。テロリスト容疑者を誘拐して、何ヶ月、何年にもわたる尋問の為、シリア、エジプトあるいはサウジ・アラビア政府へ送り出すことを意味するブッシュ政権の婉曲語法「引き渡し(rendition)」。

ロビンスの演出は殺風景で、劇団のいつもの軽快で皮肉な舞台からの一種の離脱だと監督は感じている。

「これは皮肉ではありません」彼は指摘する。「ドラマとして、ユーモアもあることに気がつきました。」舞台上でほぼ二時間近くも拷問を受ける哀れなウインストン・スミスがユーモアだろうか? こじつけではないという人はいない。耳をつんざくような音楽と電極は尋問用道具の一部だ。この芝居のユーモア、現在のものは、不意に現われる、一時的なものだ。

テレスクリーンは、当然至る所に。

この「1984年」演劇版の大半は不気味なほど現実的で、全体主義的な未来社会を描いたマイケル・ラドフォードの映画「1984年」とはにても似つかない。ロビンズは映画バージョンをニューヨークで撮影する予定だ。「基本的に、今の姿そのままでいきます。大がかりな特殊効果なし。未来的な映像なし。現在の姿そのままです。」

「それよりも、心と自己検閲の問題なのです」と彼は続けて言う。「オーウェルは、後で身につけた獲得性自己検閲について書いているのです。皆がビッグ・ブラザーの存在を許してしまえば、ビッグ・ブラザーは存在するというアイデアです。怯えながら生きている人々がたくさんいること、それこそが、彼の書いていたことなのです。心の中の全体主義です。」

ロビンスに、彼のことを左翼のアジプロ宣伝だと非難する評論家について尋ねると、一瞬言いよどんだ。「誰かが左翼側から、あるいは進歩的な視点から、何かについて異議を申し立てると、いつだって即座に「政治的」だというラベルを貼って決めつけるのです。芸術作品として、わざと過小評価する策略です。一種の攻撃です。」

ロビンスはこれまでに何度もあえて危険に身をさらしてきており、その都度、彼自身あるいは家族、俳優で活動家であるスーザン・サランドンと二人の子供に対する余波を受けてきた。このカップルがイラク戦争反対を公言した時には、一家は殺すという脅迫を受け、公式行事への出席も没になった。

ロビンスは、エンタテインメント産業が我々が信じている以上にはるかに保守的であることを非難している。「過去十年間の中で最も決定的な瞬間、イラク戦争直前のことを指摘しましょう。ハリウッドは事実上、それについて沈黙していたのです。多くの人が私に言いました。「今は抗議すべき時期じゃない」と。でも、もし今がそうすべき時でないなら、一体いつがそうすべき時なのでしょう?」

米憲法修正第1条で保障された権利、つまり表現や宗教の自由の権利を行使することで、 経歴が損なわれていることはないとロビンズは言う。「自由の権利を行使しても傷つくことはありません。」と彼は言う。「それに、もしも傷つくようであれば、そんな自由とは何でしょう? 一回目のイラク戦争前に彼らは私に言いました。「ワシントンに行って抗議してはいけない。あなたの経歴に傷がつくよ。」それから二年の間に「ボブ・ロバーツ」と「プレイヤー」を作り、それから「ショーシャンクの空に」と「未来は今」を作りました。このイラク戦争後、「ミスティック・リバー」でオスカーを獲得しました。

ダブルシンク(二重思考)とニュースピーク(新語法)は、依然としてロビンスの「1984年」の顕著な特徴で、ブッシュ政権がネオコンの目論見のため、大衆管理の手段として、恐怖を声高に広め、対立状態につけ込んでいる今ほど、この悪夢が余韻を持つ時はあるまい。レーガン-ブッシュ政権時代を通じて、またクリントン政権時代を通じて、今に至るまで、右翼的なラジオ番組や他のマスコミ連中は、左翼や民主党に対して効果的なキャンペーンを継続し、アメリカ人によるアメリカ人憎悪を助長してきているとロビンスは主張する。

「今や連中は全てを手に入れました。」彼は言う。「経営陣を取り込みましたし、議会も制覇しました、司法の大半も支配していますし、事態は悪化しています。もしも平均的なアメリカ人が、遅かれ早かれ、過去25年間だまされ続けてきたということに気がつかないことには…」

「私は敵ではありません。」ロビンスは言う。「私はアメリカ人労働者を、平和と正義を擁護してきたのです。敵ではないでしょう。敵とは、この国において憎しみが必要だと皆に信じ込ませようとしている連中です。皆の憎悪は、皆の最大の利益など考えていない連中、つまり、ワシントンにいて皆の代表などしてはいない連中の権力を維持させ、それを増長させる役にたっているだけです。連中は工場を閉鎖し、中国で一番高値をつけてくれる入札者に仕事を投げ売りするのです。なんと非アメリカ的でしょう? それなのに、連中は神様やら国家とまんまと手を組んで、この幻想を過去25年間に渡って売り込み、刷り込み続けてきたのです。実に賢明かつ有効なプロパガンダです。」

現代の国民に「同意しない」気風が欠けているとすれば、それはあまりの安楽さの結果かもしれないとロビンスは言う。「皆、自分は快適だと思いこんでいるのです … テレスクリーンにからみとられて、信じこんでいるのです。「娯楽と気晴らしと広告」という文化を受け入れているのです。」

ロビンズのように有力な立場にある名士で、大衆娯楽を超えた場面で発言しようとする人はほとんどいない。最近のジョージ・クルーニーという例外を除いて、人前で進んではっきりものを言える進歩的芸能人のリストは悲惨なほど短い。

ブッシュ政権は、リベラルな主張を遠慮無く発言するアメリカ人のことをスパイしているだろうか?

ロビンスは言う。「連中が [盗聴]のことをとても隠したがる理由は、連中がニクソン流の罠にはまっているからだと本気で思っています。連中は自分たちの嘘と欺瞞に対して極端な妄想症になっていて、自分たちに反対する連中を監視したい気持ちになるのです。」

「1984年」が2006年で、敵から情報を引き出すためアメリカが「拷問」を行っているのだとすれば、ビッグ・ブラザーの監視を避けるため、ロビンズは依然として手の内を見せることを拒否している。政府が自分を監視している可能性があると言いながらも、「妄想症は、戦争に負けているというあかしです。」と彼は語っている。

元の記事
http://www.alternet.org/story/32965/

アクターズ・ギャングのWeb
http://www.theactorsgang.com/

芝居「1984年」のプログラムPDF
http://www.theactorsgang.com/pdf/1984_prgrm_full.pdf
なぜ「1984年」か、で始まるティム・ロビンスの文も読めます。

ActorsGangStudyGuide1984pdf
http://www.theactorsgang.com/pdf/ActorsGangStudyGuide1984.pdf
立派な教科書!

マイケル・ジーン・サリバンのWeb
http://www.michaelgenesullivan.com/michael/michael.htm

サンフランシスコ・ マイム・トループのWeb
http://www.sfmt.org/

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http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/orwell/trobbinsp.html
より転載。