ネルソン・デミルのワイルド・ファイアー2006/11/19 13:19

「プラム・アイランド」
「王者のゲーム」The Lion's Game
「ナイト・フォール」に続く、大人気の主人公による難問解決のお話がやっと出ました。舞台は911攻撃一年後のアメリカ。イラク侵略の可否というよりも、実行時期がマスコミの話題の中心になったころが舞台。

事実とフィクションをつきまぜて小説にしているので、どちらがどちらかわからなくなりがち。出版前の原稿を読んだ人が、何が事実で、何が想像なのかと著者に尋ねるむきもあったということで、冒頭には、主な組織やコードネームについて、事実、フィクションいずれか、説明してあります。

時々以前の本のエピソード・人名が出てきたりするという読者サービス?があるので、やはり「プラム・アイランド」「王者のゲーム」「ナイト・フォール」を読んでから、本書を読むのが自然の流れでしょう。順序が逆でも問題はないでしょうけれども、突然触れられる人名やら出来事、意味が分からないのでは楽しみが半減とは言えずとも、多少減少するのでは。

Orwelian、newspeak、two plus two is fiveという表現が冒頭立て続けにでてきます。「ナイト・フォール」冒頭部分にもやはり「1984年」のキーワードがありました。オーウェルの「動物農場」と「1984年」が、ハックスリーの「素晴らしき新世界」とともに、彼の愛読書?に挙げられています。

カバーには「インターネットで繰り返して噂になっているアメリカ政府の計画をもとにしたフィクション」という著者の断り書きがあります。そこに続く紹介文はおおよそ以下のような内容。

アディロンダックにあるアメリカの富豪、軍、政府トップの仲間が集う「カスター・ヒル・クラブ」が舞台。一見、超エリート仲間が自然の中で狩りなどをして楽しむロッジなのだが、2002年秋、911事件に対する最終的な報復対策についての理事会が開かれる。
その週、主人公ジョン・コリーの同僚が死体で発見される。そこで、ジョン・コリーと彼の妻で上司のケート・メイフィールドが事件解決に向かうこととなる。世界の破局を引き起こすボタンが押されるのを防げるのはこの二人しかいない。

「事件の背後」の巨大さということで「ニュヨーク大聖堂」を思い出しました。
著者が冒頭言うとおりa scarey book for scary times。ひとごとではないのでは、と、読み終えてからふと思ったものです。

(2006.11.17記 )

http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/booke/ebooknd.html
より転載

イラク戦争に対する新マスコミ大攻勢 - ノーマン・ソロモン2006/11/20 00:01

イラク戦争に対する新マスコミ大攻勢

ノーマン・ソロモン
2006年11月16日 CommonDreams.org

アメリカ体制派メディアは、アメリカ軍のイラクからの撤退という選択肢に対し、大攻勢を開始した。

最近のメディア総攻撃において、フォックス・ニューズやウオールストリート・ジャーナルのような右派企業の社説欄は二等地だ。今や最強の砲撃能力は、アメリカにおけるマスコミの最も貴重な一等地、ニューヨーク・タイムズの一面にある。

現在の状況は、世論調査では大半のアメリカ人が反対していたのに、なぜベトナム戦争何年も続けられたのか疑問に思っている人々に対して、残忍な程に教訓的だ。今やイラク戦争に対する戒めだと一般に見なされている中間選挙結果の後を受けて、強力なマスコミ機関は無我夢中でアメリカ軍撤退反対の報道歪曲を続けている。

「今、イラクから撤退?そんなに早くはないと専門家は言う」という見出しのもと、11月15日のニューヨーク・タイムズの一面はマイケル・ゴードンによる「軍事分析」を大々的に扱った。記事は、アメリカ軍の撤退は「4から6ヶ月後に開始すべき」だと言う民主党議員がいるが「ブッシュ政権のイラク政策に対する最も激しい批判者達を含む多数の軍幹部、専門家、元司令官達がこの説に反対している。」というものだ。

ゴードン記者は数時間後、アンダーソン・クーパーのCNNショウに出演し、ご用評論家にすっかり変身して、撤退は「単純に、現実的ではありません。」と言い切った。ほとんどペンタゴンのスポークスマンのような口調で、ゴードンはなにやらわけのわからない理由を連ねて撤退反対と述べ続けた。

もしもニューヨーク・タイムズの軍事レポーターがテレビに出演して、11月15日のCNN出演時にゴードンが、いかなる撤退にも反対すると主張したような調子で、アメリカ軍の撤退をはっきりと主張すれば、彼なり彼女なりは即座に譴責され、恐らくタイムズのお偉方から常識外れと見なされよう。同紙報道部は、アメリカの国家安全保障という基本的世界観を自分のものとし、促進する報道に余念がない。

これこそ、いかに、そしてなぜ、ニューヨーク・タイムズの一面がイラク侵略準備段階のジュディス・ミラーの仕事に寛容だったかという理由だ。これこそが、いかに、なぜニューヨーク・タイムズが今マイケル・ゴードンにこれほど寛容である理由だ。

現時点で「ブッシュ政権のイラク政策に対する激しい批判者」なぞという範疇は事実上意味をなさない。マスコミお好みの「激しい批判者」の大半はイラク大虐殺に対するアメリカの関与を低減するのに反対で、中にはあからさまに占領の為にアメリカ軍のレベルを上げるよう促す連中さえいるのだから。

最近、イラクにおけるアメリカの政策についてのマスコミ報道は、ベトナム戦争の間、主流マスコミ各社がワシントンの選択肢をいかに描写していたかという様子の撮り直しリメークにしか見えないことが多い。ワシントン官僚間の「世間一般の通念」に対するいつもながらの盲従によって、多数の著名なジャーナリストはアメリカの戦争推進努力は続けなければならないと日々繰り返して主張する「Groundhog Day」続編共同製作者になってしまっていた。

サダム追放の年以来、無数のニュース記事やコメントがイラクにおいて今起きている災厄をベトナム戦争と比較している。だがそうした比較が両方の戦争におけるアメリカのマスコミ報道の最も困った類似を描き出すことはまれだ。

1968年であれ2006年であれ、ワシントンの報道企業の大半はアメリカ軍撤退を実行不可能で、非現実的なものとして描写しようと苦心している。

ベトナム戦争に対するマスコミ報道についての神話とは逆に、アメリカのマスコミは、アメリカのベトナムからの撤退を真面目に熟考する草の根の反戦感情から、はるかに遅れていた。この時間のずれは数年に及び、それはつまり、更に何万人ものアメリカ人と、恐らくはさらに百万人のベトナム人の死を招いた。

1968年2月行われたボストン・グローブによる調査では、アメリカ合衆国の主要日刊紙39紙のうち、アメリカ軍のベトナムからの撤退を社説にしたものは一紙とてなかった。今日、世論調査結果の反戦的な傾向と中間選挙結果にもかかわらず、現代マスコミ・エリートの間でも、イラクからのアメリカ撤退という主張は極めてまれである。

標準的なマスコミの逃げ口上はさながら血だらけのカンからを先に蹴り飛ばすごとくだ。基準にそって注意深く述べ、バグダッド政府にはきつくあたる(サイゴン政府の時と同様に)というのが議論を活性化せず、議論から身をかわす国家的マスコミ言説の特徴だ。

多くのジャーナリストは撤退という選択肢は全く現実的な選択肢ではないと言う考え方に立てこもっている。そしてまもなく議会を支配するであろう民主党員も、もし彼らが何が自分達にとって良いのかを知っていれば、そこまではあえてやるまい、いや、やるべきでないのだ、と我々は聞いている。

このようなマスコミ報道の中に潜んでいるのは、アメリカ戦争政策決定の本当の正統性は、議会でなく大統領にあるという思想だ。この話題について考えながら、42年前のCBS番組「Face the Nation」の場面のことを私は思い出す。

1964年の放送の司会者は広く尊敬されていたジャーナリストのピーター・リサゴールで、彼はゲストに言った。「上院議員、憲法はアメリカ合衆国大統領に海外政策を実行する独占的な責任を与えているのです。」

「とんでもない」ウエイン・モース上院議員は彼のしゃがれ声で割り込んだ。「今言ったこと以上にとんでもない法律的発言など不可能だ。それは、海外政策はアメリカ合衆国大統領のものだという古い誤った考えを普及するものだ。まったく馬鹿げている。」

リサゴールはあざけるような調子で問うた。「いったい誰のものですか、上院議員?」

モースはちゅうちょしなかった。「アメリカ国民のものです。」彼はやり返した。そして言った。「アメリカ国民に海外政策の真実を提供するよう私は主張しているのです。」

ジャーナリストは言い張った。「ご存じでしょう上院議員、アメリカ国民が海外政策を策定し、実行することはできませんよ。」

モースは憤然と対応した。「どうしてそんなことをおっしゃるのでしょう?アメリカ国民は、あなた方が真実を提供すれば、それを理解することができると私は確信しています。そして、私がアメリカ政府を責めているのは、我々がアメリカ国民に真実を知らせていないからです。」

オレゴン選出の先任上院議員のモースは、アメリカ合衆国憲法にも国際法にも強い情熱を抱いていた。そして海外政策は大統領が決めるものだという広く認められている考え方に反対しながら、彼はベトナム戦争について断固とした言い方をしていた。1968年2月27日の上院外交委員会聴聞会でモースは言った。「私はこの戦争の血を私の手に塗りたくはない。」

さらに予言するかのようにモースは付け加えた。「私の判断では、自分たちが世界平和に対する最大の脅威であるということで、私たちは罪に定められるでしょう。これは醜い現実ですが、我々アメリカ人は現実に直面したがらないのです。」

原文:
http://www.commondreams.org/views06/1116-34.htm

ウエイン・モース上院議員の行動の一例は、例えば下記をどうぞ。
http://www.jca.apc.org/~p-news/houhuku/lee.html