オーウェル『動物農場』の政治学2010/03/26 22:15

オーウェル『動物農場』の政治学
西川伸一著
2010年1月20日刊
ロゴス
1800円+税

書店を時折覗くが、まれに英米文学の棚の前には立っても、政治学の棚のそばによったことがない。それで、本書が刊行されてから、二ヶ月、全く知らずにいた。

『動物農場』に関する英語の本や、日本語の本、何冊かは読んだが、この本、圧倒的に読みやすく、勉強になる。

「スターリン・ソ連批判本」として、共産主義やらソ連だけ断罪するのに、本書を使うプロパガンダ言説が多いような気がするが、決してそんなことはない。
もちろん、オーウェルの狙いは、そのあたりにあったのだろうが、それだけなら、本書、今頃、消滅していても良いだろう。
『動物農場』の話、現代日本や、アメリカの政治にまでもおよぶことが、この本を読むと良くわかる。

こういう良い本、商業新聞の書評欄には掲載されない。
必読の『動物農場』副読本が、ようやく現れたような気がする。
面白いところを抜粋したいが、きりがないので、省略。是非お読み頂きたい。

次は、オーウェル『1984年』の政治学、という本を、是非書いて頂きたいものと期待している。

東洋経済オンライン書評
http://www.toyokeizai.net/life/review/detail/AC/077a2431bc2717dd11d3b5fcc396b7f0/

ロゴス社の紹介記事
http://www18.ocn.ne.jp/~logosnet/images/seijigakusyohyo.html

下記の著者ゼミurlが、巻末に掲載されていた。

http://www.kisc.meiji.ac.jp/~kokkaron/

英語教育はなぜ間違うのか2009/09/28 23:54

ちくま新書519、山田雄一郎著

知人のお子さん(小学生)に、英語を教えて欲しいといわれて、前に一度読んだ本書を、再読した。
実に、ごもっとも。
国がおしつける、いい加減な小学校からの英語教育なるものに、真っ向から、正論で反駁する良書。
ここにあげたのは、ほかでもない、オーウェルに触れた文章があったためだ。是非、購入の上、お読みいただきたいものだ。
日本語の基礎力を弱めて、自ら植民地化する政策をとることはないだろう。売国政策は、小泉・竹中ペア時代だけで、もうたくさんだ。民主党、見直しはしないのだろうか。しなければ、結局は、同じ売国政党。なお、大変に残念ながら、このblogの大元?朝日新聞の主筆、英語公用語論を主張して、植民地化の旗振りをしていることは、いくら強調しても、しすぎることはないだろう。

小学校低学年から教えるなどという無謀な政策や、アメリカ人学生に、大枚を払って、日本潜入工作支援(ALT)するのをやめ、中学、高校の先生方の留学などを進めて、英語力を全体的に底上げすればよいだろう。足りなければ、社会人投入も考慮する価値はあろう。(OBも)

以下、引用させていただく。

グローバル・リテラシーと英語

12ページ

第二次世界大戦をはさんでは、言語は政治的・思想的プロパガンダの道具と見なされた。言語と政治の関係に注目したイギリスの作家、ジョージ・オーウェルGeorge Orwellは、このテーマについていくつかの論文を残しているが、なかでも全体主義における言語統制の怖さを扱った小説『1984年』Nineteen Eighty-Fourはよく知られている。そこでの言語は、まさしく、大衆を支配し、敵を欺き、相手を倒すための武器として描かれている。

 オーウェルの作品から、五〇年以上が経過した。今日、この比喩は、どのような意味をもって使われているのだろうか。


16ページ 引用開始

イラク戦争と英語支配

 アメリカの帝国主義が顔を出しているとされる場所は、イラクである。そして英語は、そのイラクを統治している暫定統治機構の共通言語である。エッジは、「暫定統治とその権力委譲が終わったとき、イラクには英語があふれているだろう。英語なくして帝国主義は維持できないのだから」とも言っている。

引用終了

17ページ 引用開始

しかし、現実に生まれているものは、世界の新たな階層化である。どのような統一も、それが統一である限り、中心となる力を必要とする。現在のグローバリゼーションの中心勢力は、アメリカである。インターネットと英語はその尖兵である。その点から見れば、言語は現代の兵器であり、英語は最も優秀な武器ということになる。

引用終了

20ページ 引用開始

武器の獲得と英語教育

 義務教育の目的は、社会の求めるものに直接応じることではない。義務教育を、職業訓練と同列に扱ってはならない。仮に、英語が国際社会を切り抜けるための武器だとしても、それはあくまでも考慮すべきことであって直接の目的にすべきものではない。義務教育は、学習者が将来必要とするかも知れない諸能力を身に付けるための準備期間である。十分な基礎訓練こそ大切にすべきで、いたずらに断片的知識を増やすことを目的にしてはいけない。

引用終了

21ページ 引用開始

これからの日本人は英語ができなければならないという漠然とした思い込みは、かえってわれわれの英語学習を視野の狭いものにする恐れがある。学校英語教育の目的を英会話能力などに限定してはいけない。外国語の学習は、もっと豊かなものにつながっている。英語を丁寧に学習すれば、それまで見えなかった日本語が見えてくる。英語という言語が持っている広い世界は、われわれのものの見方に新しい視点を加えてくれる。それは、英会話の暗記学習では得られない刺激的で魅力にあふれた世界である。学校英語教育が英会話学校のまねごとになってはならない。その日的は、学習指導要領にある通り、正しく「コミュニケーション能力の基礎を養う」ことに置かれなくてはならない。

引用終了

そして、肝心なポイントは下記だ。

引用開始

英語公用語論と、これからの英語教育(見出しは119ページ)

120ページ

小学生に英語を教えるということは、日本人全員に英語を義務づけるということである。英語はこれからの日本人になくてはならない、と言っているのである。これは、まさに、報告書が目指している方向である。視点を変えるなら、「小学校英語」の問題は、形を変えた「英語公用語化」運動と言うこともできるのである。
 英語公用語論は、まだ、余力を残している。報告書が出された四ケ月後の2000年5月、民主党は、そのホームページ上に、「英語の第二公用語化についての提言(中間まとめ)」を公表した。「目指せバイリンガル社会!」という看板を立て、「私たちが目指す将来の日本社会は日本語も英語も同時に使用されるバイリンガル社会です。日本国内が他言語を公に受け入れる中で、真の意味で日本人の国際化が実現すると考えます」と述べている。その上で、10年後をめどに「公用語法」の制定を目指すとも言っている。10年後といえば、数えて六年後である。幸か不幸か、民主党のホームページには、この中間まとめしか掲載されていない。四年後のいまも追加報告はないが、いつ何時、最終報告が出されないとも限らない。新しいきっかけがあれば、さらに具体的な提案が現れる可能性は残っている。

引用終了

新訳版 『1984年』2009/07/21 00:24

大変な話題になって、大いに売れているという『1Q84』。その題名の元になった?本を読もうとしても、旧版は絶版だった。困った方が多数おられたのではないだろうか?

この新訳、帯に「大きな活字で読みやすいトールサイズ」とある。
たしかに、わずかに背が高いだけなのに、文字の大きさがかなり違い、読みやすい。
(帯をはずすと、全体が、夜空のような表紙。)
トマス・ピンチョンの解説まで、ついている。
新訳で、初めて、本書を読む皆様がうらやましい。

ジョージ・オーウェル
高橋和久訳
ハヤカワepi文庫
定価(本体860円+税)

ピンチョンは、解説で、明るく、こう書いている。

ニュースピークは生き長らえず、標準英語に息づくヒューマニズムの思考は消え去ることなく、生き残り、最終的には勝利したらしいのだ。もしかするとその英語が代弁する道徳的秩序までもどういうわけか復旧したのかもしれない。

本当だろうか?
オバマ大統領の、チェンジは継続だった。
小泉元首相の、改革は破壊だった。

標準英語は生き長らえず、ニュースピークに息づく、アンチ・ヒューマニズムの思考が消え去ることなく、生き残り、最終的には勝利したらしいのだ。もしかするとそのニュースピークが代弁する非道徳的秩序までも勝利したに違いない。
と、素人には、思えてくる。

政権交代は、政権後退だろう。

動物農場 おとぎばなし 岩波文庫版2009/07/18 23:43

待望の翻訳本、ようやく刊行された。
川端康雄訳
http://www.bk1.jp/product/03130430
(角川文庫クラシックスに、既に翻訳がある。こちらで長年愛読してきた。http://www.bk1.jp/product/00035423

カバー裏には、こうある。

引用始め

動物農場
「すべての動物の平等」を謳って産声をあげたアニマル・ファーム動物農場。だがぶたたちの妙な振舞が始まる。
スノーボールを追放し、君臨するナポレオン。
ソヴィエト神話とスターリン体制を暴いた、『一九八四年』と並ぶオーウエルの傑作寓話。
舌を刺す風刺を、晴朗なお伽話の語り口で!

引用終わり

「ソヴィエト神話とスターリン体制を暴いただけ」であれば、とっくにこの本、忘れさられていたのではないだろうか。
「ツアー体制を打倒した、革命家達による政権が、結局は、旧体制に代わって、国民の抑圧・支配を継続する。」ことだけが書かれているわけではないだろう。
このお話、かつてアメリカCIAが、資金をだして、イギリスでアニメにして、反ソ連キャンペーンを狙った過去がある。今や、ブーメラン現象。資本主義国家における「政権交代」のいんちきさをこそ描いているように読める。
2008年のアメリカ大統領選挙で起き、この夏、日本で、これから起ころうとしている政権交代なる、恐ろしい現実に、個人的には、読み替えている。動物農場における、支配者の交代と同様に、支配者の交代だけで終わってしまうという未来だ。つまり、

「すべての動物の平等」を謳って産声をあげたアニマル・ファーム動物政府。
だが民主ぶたたちの妙な振舞が始まる。

これだけぞっとする古典スリラー?が、わずか560円+税。
しかも、岩波版、詳細な注だけでなく、付録1 出版の自由 付録2 ウクライナ語版のための序文、まで入っている。

「出版の自由」、日本のマスコミにもそのままぴったりあてはまる。