ビッグ・ブラザーを好きにさせられる2005/09/08 14:25

ビッグ・ブラザーを好きにさせられる ジョージ・ブッシュ、ジョージ・オーウェルと霊界通信

憲法学者に対する質問が一つある。現職大統領を、剽窃の罪で訴えることは可能だろうか?

ブッシュ大統領は、テロに対する戦いを遂行し、強大な国内保安体制を作り上げようとする中で、ジョージ・オーウェルのアイデアを、不法コピーとは言わぬにせよ、相当程度借用している。問題の作品は、組織的宣伝を行って危険な思想を取り締まり、必要にあわせて歴史を書き換えることで大衆を管理する政府を描いた予言的な小説「1984年」だ。本来、全体主義の悪についての警告として描かれたものであり、ハウツウマニュアル本などではない。

オーウェルが描いた類の専制国家とはかなり違っていることは認めるが、いささか気味悪くなるほど似ている共通点もいくつかある。

永久戦争

「1984年」では、国家は曖昧模糊とした千変万化の敵と永久戦争状態にある。戦争は主として、抽象的ながら、憎悪に油を注ぎ、恐怖をかき立て、自国の専制的な手口を正当化するのに都合の良い場所で行われる。

ブッシュのテロリズムに対する戦いは、ほとんど漠然とした状態になっている。大統領の決意は堅く、ミッションは明確だと言われているが、戦っている敵の姿は我々にはますますわからなくなりつつあるようだ。オサマ・ビン・ラディンとアルカイーダに対する戦いとして始まったものが、あっという間に、アフガニスタンに対する戦いに変貌し、それが「悪の枢軸」に対する厳しい警告となり、50から60か国のテロリストを狙うものとなり、そして今や対イラク大軍事作戦が始まった。この戦争で、何をもって勝利とするのか明らかではないが、ブッシュ政権がはっきり言っているのは、この戦争は「無限」に続くということである。

真理省

小説「1984年」で、政権党の組織的政治宣伝の機関として機能する真理省は、戦略的目的に合った嘘を広めるばかりでなく、歴史を常時書き換え、歪曲する。これはブッシュのホワイトハウスでは、きわめて日常茶飯事となり、大統領演説記録は大統領の失言をぬぐい去ることがお決まりとなり、9月11日以前の諜報機関による警告は、改作されるたびにむらが増し、ブッシュの過去の財務取引を巡る事実は絶えず改訂されている。

嘘をばらまくという意図について、ブッシュ政権は驚くほど正直だ。例えば2月には、ペンタゴンは世論を操作し、軍事的目的を進めるため、海外で虚偽のニュースと情報を流すための戦略的誘導局を創設すると発表した。大衆の抗議に対し、ペンタゴンは、その役所を閉鎖するとと言ったが、これは虚報をばらまく予定だと発表した役所からのものでなければ、よりもっともらしく聞こえたニュースだ。

無謬の指導者

あまねく存在する全能の指導者ビッグ・ブラザーは、全支配権を掌握し、人々の無条件の支持を得ている。彼は崇敬されると同時に恐れられており、国家の懲罰が恐ろしいので、誰も彼に対してあえて思い切って意見を言ったりはしない。

ブッシュ大統領はそれほど危険な人物ではないのかも知れないが、彼はより強大な権力への欲望をほとんど隠そうともしていない。独裁者だったら物事がどんなに簡単だったろうか、と彼が三度以上も言及したのは気にしないことにしよう。

政府の一部門が余りに強力になりすぎるのを防ぐため憲法によって確立されているチェック・アンド・バランスの多くを捨て去って、ブッシュは既にニクソン以来最強の行政権を実現してしまった。彼の支持率はかなり高率のままであり、彼の手下達は無謬のイメージを作り上げるべく奮闘している。

オハイオ州で行った最近のブッシュの卒業式演説ほどあからさまなものはない。その中で学生達は、演説に抗議行動をしたら、逮捕され除名されると脅されたのだ。学生達は「万雷の喝采」をするよう強いられ、事実そうした。

ビッグ・ブラザーは監視している

双方向テレスクリーンを使って、党の政治宣伝を放送すると同時に人々のあらゆる動きを監視して、ビッグ・ブラザーの不断に警戒を怠らない目は、オーウェルの全体主義国家市民を見張っている。

その技術はまだ実現してはいないかも知れないが、公的なビデオ監視は、取り締まり、スポーツ・イベントから、公共の海岸に至るまで大流行で、カメラは至る所に設置されている。

ブッシュ政権は、TIPS作戦とあだなをつけられた計画-つまりテロリズム情報と予防システムの一部として、いかなる疑わしい行動についても報告するよう、何百万人ものアメリカ人を採用し、警察にとって更なる目、耳として働く市民スパイの組織を作ろうという計画も発表している。

慌ただしく可決されたアメリカ合州国愛国法のおかげで、司法省は、電話会話、インターネット利用、業務取引、図書館閲覧記録を監視するという、全面的な新しい力を手に入れた。何よりも、司法当局は捜査の為の面倒な、「相当な理由」など思い煩う必要がなくなったのだ。

思想警察

「1984年」に描かれた、常に存在する思想警察は、意見を異にする連中を撲滅し、レジスタンスを探し出す任務を持って、あらゆる異端、あるいは反秩序的な可能性のある思想を入念に監視した。

ブッシュ政権は今のところ思想犯罪を訴えてこそいないが、テロリズムに対する戦い、或いは祖国防衛にあえて疑念を呈しようとする人間は誰でも、直ちにその愛国心を問われることになる。

例えば、司法長官ジョン・アッシュクラフトが、その反テロリズム施策に対する批判に答えるやり方を見てみると、政府への反対者は、「ひたすらテロリストを助けるだけ」で「アメリカの敵に弾薬を渡すもの」だという。

今や消滅した『Political Incorrectness=差別的表現』のホスト、ビル・マハールが、過去のアメリカの軍事行動を「卑怯だ」と言った後、ホワイト・ハウス報道担当官アリ・フレィシャーがアメリカ人に告げた峻厳な警告は、更に薄気味悪いものだった。アリ・フレィシャーはこう言ったのだ。「全てのアメリカ人は、自分たちが言うこと、することに配慮するよう注意を喚起したい。今はそんな所説を述べている時節ではないのだ。そんな時節は決して存在しない。」

アメリカを、オーウェルが警告したような、戦争は平和で、自由は隷属で、無知が力であると見るような社会にするには一体どれほど手間がかかるのだろう? それは一夜にして起きるのだろうか、それとも、人々の合意によって自由が次第に浸食されて行くものなのだろうか?

我が国は戦争状態にあるので、たいていのアメリカ人は、より大きな安全の為に自らの自由の多くを進んで犠牲にすると言うのを、常時思い起こさせられている。

我々は、政府を盲信するように言われており、大半の人々は愛国的な熱情からそうして来た。だが政府がそうした信頼につけいって、民主的社会の特徴である異議申し立ての自由を根絶し始めるのであれば、我々は引き返すことが可能なのだろうか?

「1984年」では、人々の心に対する政府の管理が極めて強力なので、結局誰もがビック・ブラザーを愛するようになったのだった。恐らくは我々も皆やがてそうなるのだろう。

Daniel Kurtzmanは、サンフランシスコのライターで、元ワシントンの政治記者。

これは、2002年 8月26日付けの文章Learning to love Big Brotherを「勝手に」翻訳したものです。 http://www.tompaine.com/feature2.cfm/ID/6243

http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/orwell/learntolovebb.html より転載。

コメント

_ たちばな ― 2005/09/16 13:15

TBありがとうございました。
アルバイトの行く電車の中で、今もう一度『1984年』を読み返しています。
『1984年』に登場する「永久戦争」と「対テロ戦争」は、見事なくらい一致していますよね。
「対テロ戦争」を批判する者にとって、『1984年』は必携の書となるとおもいます。

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_ T's Home 日記 - 2005/09/16 13:15

東京新聞(オンライン)の記事「小泉自民寄りくっきり 20代のココロ」を読んで、今日も眩暈がしましたよ僕は。今回の選挙では、20代の若者の多くが自民党に投票したという。そこで東京新聞の記者が若者にインタビューしてるんやが、彼/彼女たちの多くが小泉首相を始め