ジェームズ・ミッチェナーの「サヨナラ」2005/09/28 19:09

アテネ市街を歩きながらギリシャに詳しい同僚が教えてくれたことがあります。 「ビーチ・サンダルをギリシャ語で『サヨナラ』というんだ。そういう名前の映画があったっていうよ。」

ミッチェナー原作のSayonara、朝鮮戦争時、アメリカ名家出身英雄パイロットが、婚約者がいるにもかかわらず、日本の歌劇スターとの恋に落ちてしまうという話。 ミッチェナーの作品ではTexasやCaravans、Sourceなど感心して何冊か読んだのですが、Sayonaraだけはいただけませんでした。ペーパー・バックの表紙がいかにもという絵柄。

Space、Iberia、Hawai、Polandといった長編作品が翻訳されているのに、このSayonaraさすがに翻訳はないのかも知れません。戦後日本の観光振興上、相当効果はあったでしょう。 映画ではエリートの戦闘機パイロット、グルーバー(マーロン・ブランド)が部下の恋愛(日本人女性カツミ役はナンシー梅木)をとりもち、さらに自ら婚約者がありながら、歌劇団スターのハナオギ(高美以子)と恋愛に落ちる。 同僚の話があったので、どこかで英語版VHSビデオを買って、いつビーチ・サンダルが登場するのかと画面をじっと見た記憶があります。(今はDVDもでています。) 「写ったのはビーチ・サンダルではなく、舞子姿の女性が履く草履だった」ような気がします。

Webを探しても、「ギリシャのビーチ・サンダルの『サヨナラ』の語源は、ミッチェナー原作のSayonaraだ」という記事は見あたりません。

本当の所はどうなのでしょうう? この本の現地版、つまり朝鮮戦争の現場を主に書いたものにThe Bridges at Toko-Riがあるのですが、何せ昔のこと記憶は皆無。

映画(DVD) で再確認しましたが、草履の大写しはありませんでした。 小説を読み直してみると、204ページにありました。これが語源だということにはならないのですだれども、うろ覚えの「草履」というのは当たらずとも遠からず?(全部で208ページだから最後の部分です)主人公グルーバーのセリフ。 I stood helpless and then saw in one corner of her room a zori that she had forgotten. 映画は小説とは大分違います。やはり原作の方が良いようで。 日本人と結婚した兵士をあっという間に本国送還するのと同様、犯罪を犯した兵士が素早く本国送還される現代、還暦になるほど年を経ても、Sayonara時代と変わらずここが占領状態なのに感心します。

ところでカツミ役でアカデミー助演女優賞を得たナンシー梅木という女性、本来ジャズ・シンガーでCDも。伊藤整、小林多喜二の出身地、小樽出身。

http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/booke/caravans.html から転載

ジェームズ・ミッチェナーのSource -小説・人間の歴史2005/09/29 22:12

購入したのは何と1987年。 昨年読み始め、380ページあたりで中断。 この夏、気を取り直して読み始め、やっと最後の1088ページまで辿り着きました。

長い長い宗教弾圧と虐殺の歴史から現れる壮大なイスラエル建国物語ということでしょうか。 遺跡発掘の土地を舞台に、発掘順と逆に遺跡の下層から上層に向かって物語は展開します。 三大宗教発祥の地に生きた人々の歴史ですが、ヨーロッパやロシアも舞台の一部です。

トルコ統治時代の土地買収交渉の章が余りに冗長で、その部分を読むのに何日かかったか記憶にありません。 最初に書いてあった、狂言回し役の考古学者達のロマンスの経緯も、最後の章を読む時点ではすっかり忘れてしまっていました。日本語で読めたらどれほど楽だっただろうと思います。 調べてみると「小説人間の歴史」という題名で、河出書房から「三冊」本の翻訳がでています。 中野好夫他訳、1967年刊。(原書は1965年刊。) 古書をWeb検索してもほとんど見かけず、図書館データベースでも見つかりません。 私立大学の図書館にあったりするようですが、アクセス不可能なのが残念。 デジタル版を廉価で出してもらえないものでしょうか。

アメリカとイスラエルの密接な関係はよーく分かります。ミッチェナー作品中、アメリカで最も読まれている本のようです。さもありなん。 イスラエルとアメリカを、バチカンとカトリック教徒に例える記述はうまい物だと感心。

困難だが「明るい」未来を作りたい、という結末、65年当時の願望でしかなかったのかと残念。 その後40年間の展開が、結末の雰囲気と大きく違ったのは作者の罪ではないのでしょうが。

異教徒と間違えて同じ宗教の人々を誤って大量殺戮する「十字軍」のすさまじさ。 「宗教は剣呑」なのではあるまいかと、無宗教者は思うばかり。 長い長い宗教弾圧と虐殺の歴史は、そのまま継続している。拡大しているというべきでしょうか。 結末の雰囲気と大きく違う現状こそ、むしろ本書の素直な延長に思えてくるのです。

アマゾンでの書評は絶賛に近いが、イスラム諸国で本書は販売されているのでしょうか? その場合どのような評価になるのか大いに興味をそそられます。

宗教、「百害有って一利無し」なのではないだろうか、と貧しい一庶民は思うのです。 日本の現状も宗教を信じる人の議席が圧倒的多数。

「地獄への道は善意で敷き詰められている。」

http://www.samueljohnson.com/road.html

http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/booke/caravans.html から転載

「続動物農場」?ジョン・リードの「スノーボールのチャンス」2005/09/30 20:43

ニューヨーク育ちで、911事件のおきたツイン・タワー・ビルから25ブロックの所で暮らす33歳の作者ジョン・リードJohn Reed(どこかで聞いたような名前)が、事件から三週間後に書き上げたオーウェルの名作「動物農場」その後のパロディ。 著者は「事件前日、ラファイエット通りを妻と歩きながら、Snowball's Chanceという題名を思いついた」「その題名が何かに結びつくものとは知らずにいた。翌日妻に起こされた。そしてテレビを見ながらその題名を思い出した」。 原稿はオーウェル財団にも送られているが、当然ながら財団は快く思っていないという。 この作品には、BBCが苦言を呈したり、オーウェルの後継者を自称する?ヒッチンスがかみついているようだ。

英語でsnowball's chance (in hell)という表現、「ほとんど見込みなし」という意味。

あらすじは以下の通り。

「動物農場」では、時とともに主な豚たちが年老いて亡くなっていった。そこにひょっこり、かつて駆逐されたあのスノーボールが現れた。 ともあれ受け入れられ、やがて実権を握ったスノーボールは大胆な改革を導入し、動物たちに、空調、暖房、お湯、窓完備の家畜小屋という「快適生活」を提供する。ソ連式共産主義から一転、アメリカ現代資本主義。動物は皆二本足で歩き、着物を着るようになる。この快適な生活に不可欠な電気を発電する為、教養ある山羊を招いて「双子風車=ツイン・ミル」を建設する。

やがて高水準の生活を目指して新たな動物、たとえばダチョウ等が続々と周辺地域から到来し始める。そうした動物にとり、さしあたっての職業は肉体労働。もとからいた動物は郊外に新築された快適な家畜小屋に移り、新参者が中心部の古い家畜小屋で暮らすようになる。中心部では軽微な犯罪が多発する。

水源地帯のウッドランドで暮らす動物の中には、「快適な生活」に賛同しない連中がいる。原理主義者のビーバーだ。以前は、近隣の農園の人間がしかけるワナにかかって命をおとすビーバーが多かったが、灯油によるワナ破壊技術によりそうした問題は解決するようになった。ワナ破壊の為に自己犠牲を払ったものは、1600本の清純な若木(あるいは1600匹の新鮮な毛虫、1600本のブラックベリーの藪など、各自の好みに応じたもの)が待ち受けているという。これを熱心に信じるものもあれば、信じないものもいる。誰が水源を抑えるかは、ビーバーにとって深刻な問題だ。動物農場側は、水源確保の為に多額の補償を提示するが、受け入れれば由緒ある「ビーバー法典」を曲げることになってしまう。豚たちの華美な生活にビーバーは不快感を抱いている。

動物農場は人間から融資を得て「動物フェア」というテーマパークを運営することになる。建設の為、動物に様々な役割が割り振られる。たとえばモグラとコウモリは「美観担当」だ。「動物フェア」は商業的に大成功する。出し物として芸達者な動物や犯罪者の告白ショウを用意する。ひきもきらないタレント希望者のオーディションは豚がする。観覧車も建設される。哲学的で冷静なベンジャミンも、そうしてやってきた芸達者のロバ、エメラルド親子に惚れ込んでしまう。

「動物農場」では 「全ての動物は平等だが、ある者は他の動物よりさらに平等だ」が標語だ。 新しい「動物農場」の標語は、 「全ての動物は生まれは平等。何者になるかは各人の自由」で、「どれだけのものを手にすることができるかは、どれだけのものを夢見ることができるか」にかかっている。

豊かな「動物農場」は周辺農家を買い取り、大いに拡張するが、生活水準維持の為に排出されるゴミ、汚水による環境問題の深刻化は避けられない。ゴミ焼却による大気の、排水による水の汚染。豚による訴訟も盛んにおこなわれるようになる。

「快適な生活」より由緒ある「ビーバー法典」に固執し、質素な生活を送るビーバーは、やがて攻勢に出る...。

Snowball's Chance John Reed 19.95ドル Roof books 2002年刊 ISBN 1-931824-05-3

Roof Books Snowball's Chanceの出版社 http://www.roofbooks.com/book/index.cfm?GCOI=93780100836410

http://www.asahi-net.or.jp/~IR4N-KHR/orwell/snowball.htmlから転載・編集